迷走タクシー

プロローグ

経路1

経路2

経路3

経路4

エピローグ


プロローグ

この日私は、仕事で広尾のある店から二子玉のある店へと移動しなければ いけなかった。
午前 3時に二子玉入りする予定だったが、広尾で少々手間を取られて、 時計はすでに 4時をまわっていた。二子玉で待機している Y氏は、前日の 朝 9時から働きづめだったので、まだかーーぃと私の到着を心待ちにしていた。
私はタクシーを呼びつけ、二子玉へと向かった。
運転手に地図を見せると、目的の店はカーナビに乗っているから大丈夫だと 答えた。事実、出発地の広尾の店が画面で光っていたので、私も安心して 鞄を開け、資料に目を通しはじめた。

経路1

それから30分ほどたっただろうか。もう店は近いはずだ。
私はその店に初めて行くので、詳しい道は知らない。運転手は、大きな道から 右に入って、少し行ってまた右に入り、カーナビで光っている店へと到着した。
「こちらですか、お客さん?」
店を覗き込むと、Y氏の姿は見えず設置したはずの機械も見えないので、別の店だと 気づく。
「違うみたいなんですが。」
と言って、もう一度地図を見せ、カーナビで確認。どうやらすぐ近くにもう一店 あるようだ。
「こちらですね。」
運転手は、カーナビの画面を横目でちょこちょこ確認しながら、もう一つの光る店に 向かった。

経路2

ん? なんか雰囲気がおかしいぞ。道が狭い。えらく住宅地の奥へ来てしまったようだ。 こんなとこに店はあるのか??
「あれー、おかしいなー。わからんなー。よわったなー。」
運転手は、カーナビとにらめっこしながら、細い道を行ったり来たりしている。 カーナビは細かい道は不得意だ。しょうがない。GPSの精度はそんなによくない。 なのに運転手は、画面上の自分の車の位置と方向を絶対だと思っているようで、 交差点に入ると、右に曲がってみては方向がずれて、バックして、 左に曲がっては、やっぱりずれてて、バックして戻って、 真っ直ぐ行っては、画面の道じゃないところに入ってしまって、戻って...。
そんなこんなで、迷いにまよってやっと店の看板が見えてきた。
「お客さん、あれですか?」
店を覗き込むと、Y氏の姿は見えず設置したはずの機械も見えないので、別の店だと 気づく。
さっきと同じ店だ.........。
「ここじゃないです。さっきの店ですよ...。」
「あれー、おかしいなー。わからんなー。よわったなー。」

経路3

もう一度、カーナビで確認。すぐ近くにもう一店ある。
「あれー、おかしいなー。わからんなー。よわったなー。」
よわっているのは、こっちである。
運転手は、首をかしげながら、カーナビとにらめっこしながら、また細い道を 進み出した。 ん? なんか雰囲気がおかしいぞ。またえらく住宅地の奥へ来てしまったようだが、 さっきも同じ所を通ったぞ...。 「あれー、おかしいなー。わからんなー。よわったなー。」
よわっているのは、こっちである。
運転手は、カーナビとにらめっこしながら、また行ったり来たりしている。 またどれくらい時間が経っただろうか。やっと店の看板が見えてきた。
「お客さん、あれですよね?」
店を覗き込むと、Y氏の姿は見えず設置したはずの機械も見えないので、別の店だと 気づく。
また、さっきと同じ店だ.........。
「ここじゃないです。またさっきの店ですよ...。」
「あれー、おかしいなー。わからんなー。よわったなー。」
もう何も言葉もない。

経路4

もう一度、カーナビで確認。すぐ近くにもう一店ある。
「あれー、おかしいなー。わからんなー。よわったなー。」
よわっているのは、こっちである。
運転手は、首をかしげながら、カーナビとにらめっこしながら、車を進めた。 カーナビで目的の店が光っている。ここを右に曲がれば行けるのではないか? っと思った瞬間、運転手は左に曲がった。
「なんで左なんですか。カーナビの使い方わかってんですかっ!?」
とうとう、切れてしまった。しかし、使い方とかそういう問題ではない。 ご飯茶碗を持つ方が左で、お箸を持つ方が右なのである。
「あれー、おかしいなー。わからんなー。よわったなー。」
運転手は慌てて引き返し、右に曲がった。
「こちらですか...、お客さん?」
店を覗き込むと、Y氏の疲れきった姿が見えた。設置した機械も見えた。この店だ。
「ここです...。」
「すいません...。お金はいいです。」ブオォーーーン.........
運転手は、逃げるように走り去った。
私の手には、あと金額を書くだけのタクシーチケットが残った。 書いとくんじゃなかった.........。

エピローグ

今にして思えば、運転手もかわいそうだ。しかし、あの状況は困った。 私はこの日の 1時に広尾入りして、19時まで二子玉で待機する予定だったのだが、 前日、18:30に呼び出されていたので24時間勤務になる予定だったのだ。
そんなひにこの出来事はこたえた。

しかし、三回も間違えるとは、漫画のようだった。


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